西欧建築の窓
1 窓の機能
メリット
・外光の取り込み
・通風/換気
・ゴミ等の放出口

・外を眺める/監視する
・販売/展示としての活用
・出入口としての活用(非常用含む)
・建物を装飾する
デメリット
・防犯上の弱点
・プライバシー保護上の弱点
・壁式建物の場合、構造が弱くなる(構造確保の為には高価な工法が必要)
・冬は暖気が逃げ、夏は日光や熱気が入ってくる
・騒音の侵入/室内音の流出
・害虫の侵入
2 窓と窓ガラス
現代では窓ガラスが無い窓は考えられないが、窓ガラスが一般的になり普及したのはそんなに昔のことではない。
日本では明治後期~大正(すなわち20世紀初頭)に入ってからのことであり、西欧でも、窓ガラス自体は古代ローマからあったが、一般庶民が使えるようになったのは17世紀以降の事になる。
窓ガラスが無い時代の窓に思いを馳せるとその不便さと弱点の防止の苦労が忍ばれる。
3 窓の種類
いろいろな呼称があるが、基本的に設置場所の違いによる呼称と開き方の違いによる呼称に分類できる。
設置場所による呼称
■天窓■天井(屋根)に設置される
■高窓■壁の天井に近い部分に設置される
■腰高窓■床と天井との間の位置に設置される、いわゆる普通の窓。通常は出入りには使用しない。
■地窓■床に接して設置される低い高さの窓。通常は採光とか換気の為に利用し、出入りには使わない。
■掃き出し窓■窓の下部が床面と同じ高で、出入りができる窓。日本の戸建て1階部分やマンションのベランダにでる部分などに普通に見られる。
開き方による呼称
■片引き窓/両引き窓■横にスライドして開く
■縦すべり出し窓■ドアの様に開く
■横すべり出し窓■上又は下を基点として庇のように開く
■観音開き窓■左右にドアがあるような形で開く
■FIX窓/固定窓■開閉できない窓
■上げ下げ窓■窓の上下半分を上下スライドして開ける窓

4 建物の構造と窓の関係  
日本の古来の建物は木造であり、構造的には「柱梁建築」と言われるもので、柱を立て、梁を張り、屋根を乗せる、そして四方に壁を作り空間を確保する形である。この構造では壁には建物の荷重が掛からないので壁には大きな開口部(出入口とか窓)を楽に作ることができるのが特長。

一方、西欧の建築、特に木材が不足していた地中海沿岸では木造よりも石造やレンガ作りの家が一般的。これは構造的には「組積造建築」と言われるもので石やレンガを積み上げ壁を作り、その上に木の梁を乗せ屋根を張り空間を確保する形である。この構造では壁は建物の荷重を支えるので壁に大きな開口部を設けることはできない。壁に穴を設置すること自体がおおごとであり(アーチの利用など)、小さく、幅の狭い開口部しか作れないのが特長。ロマネスクの教会堂などは正にその制約の為に建物の内部空間に比べて窓は小さく、少なく、暗い堂内になってしまっている。

(注:両構造については本章「西欧建築のアーチについて」にも詳しい。)

5 日本の窓の特長  
・平屋(一階建て)中心の家屋では腰高窓が必要とされることが少ない。
・多層建築には上層階に窓が設けられこともあり、多少は特長的なデザインが採用されていることもある。銀閣寺(下写真)はその代表的な形の火灯窓(花頭窓)と呼ばれる釣り鐘型の窓が2階に設置されている。
・下写真はよく見かけがちな住宅構造。この開口部を「窓」というのはちょっと気が退けるが、機能的には窓の機能を持つもので,この章では「掃きだし窓」と扱いたい。
室内と外側との間には紙張りの障子が置かれ、外光を透しつつ、外界と遮断する。しかし、障子では風雨や盗難などを防げないので障子の外側に木製の雨戸を設けことも多いが、この住居のように雨戸が設置されない場合も多い。高床式の建物なので掃きだし窓との相性も良い。
・掃きだし窓は出入り口としても利用される
伝統的日本家屋や重要施設(寺院、城)を特長づける要素として重要なのは屋根、或いはそれを支える柱梁構造であり、窓(出入口や開口部)の重要性は西欧の様には高くない。
6 西欧の窓の特長  
・壁が構造体となる組積造作りの建物では窓の位置や形状は容易に変更することができない。
・建物を特長付けるものとしての壁面の列柱やニッチ、ペディメントなどがあるが、窓もその一つの重要な要素。特に教会堂や公共施設などでは通りや広場に面したファサード部分に意匠を凝らした窓を配置する


多様な窓やニッチを配しているバロック様式のドイツ・リンダーホフ城館のファサード
・石造りの家では大きな開口部を作るのは難しく、一般的には小さな腰高窓、掃きだし窓を採用
ドイツ・トリアーにある古代ローマの城門ポルタニグラ。窓に雨戸はなく厚い壁自体が庇の役目を成し、雨の吹き込みを防止している。
・近代は大きな一枚板ガラスが用いられるが、その昔は小さなガラスを組み合わせて大きなガラスを作った。下写真は瓶の底のよなうな小さな円形のガラスを鉛のフレーム等で組み合わせ大きな板ガラスにしたもの。
或いはアラバスター(雪花石膏)という半透明の石材を曇りガラスのように使ったがいずれも、高価なものであり領主の城館とか教会堂などでのみ使用された。
一般の建築では板ルーバ、レース布、皮、油紙などが今で言う窓ガラスの代用となった。更に風雨避けや治安の為に、一番外側には木製の戸を付けることが多かった(下写真)。
7 西欧の窓の様式  
前述の様に西欧建築にとって窓の意匠は大事なものであり、多くの形状が様式化されて行った。
オクルス(眼窓)
円形の窓で、特にドームの頂点に開けた円窓(セントラル・オクルス)を言う。

下写真はローマ・パンテオン。ドームや側面には窓がないので、これは唯一の明り取りの役目を果たしている。当時はこんな大きな開口部を覆うガラスはなかったので穴があいている。雨が吹き込んで来るが、頂部にあるために室内空気が上に抜け、思った程は雨は吹き込まないという話しだ。
ディオクレティアヌス窓(浴場窓、テルマル窓)
古代ローマの浴場に使われたとされる形態の窓。半円形に縦桟(マリオン)が2本入る単純な構造だが、浴場に限らず、多くの場所で目にすることができる。

の2枚は上海の租界ビルに見られた浴場窓。
様々なアーチ形の窓
通常、窓は四角い形なので、そのままではバリエーションが無い。それを打ち破る工夫として窓の上部を直線ではなく、曲線とする工夫が多々ある。

もともと組積造作りの壁に穴を開ける為にはアーチ構造を用いざるを得ず、その為に窓の上部は半円形になるのが成り行きであるが、半円形だけではなく、様々な工夫が成され、多様な造形を生み出している。詳細は本稿「西欧建築のアーチについて」参照。
下の教会堂は上部が半円形のアーチ窓(ロマネスク時代)、下部は先がとがった尖頭アーチ窓(ゴシック時代)。一つの教会堂だが時代を渡って作られた為、このような様式の混在になっている。
ペディメント
窓の造形力を高める工夫としてはアーチの活用と共に、窓の上部壁に配されるペディメントと呼ばれる装飾がある。
ペディメンドは元々はギリシャ神殿などの妻側の屋根と横梁とで構成される三角形の部分を言うが、同様な形態を模した窓飾りもペディメントという。
三角形や丸い櫛形(セグメンタル・ペディメント)などがある。

下の建物は1階はペディメント無し、2階は2種類のペディメントの連続、3階は三角形のペディメントが並ぶ。このように整然と並べるとルネサンスの特長が現れる。
下は2階はペディント。3階は単純な半円形アーチ、1階はアーチのキーストーンのような形でデザイン化している。
バラ窓
ゴシック期の教会堂に現れた大きな丸窓。丸形の窓ということではあるが古代のオクルスとの直接的つながりはないようだ。「バラ窓(バラは聖母マリアの象徴の一つ)」という呼称は登場した13世紀のゴシック期ではなく17世紀以降についたということだ。

全体は一枚のガラスではなく、トレーサリーというデザインされた桟で小さく仕切られたエリアにステンドグラスがはめ込まれている。室内からは美しい光や象徴的図象が見られる。

下はドイツ・ストラスブールのノートルダム大聖堂のバラ窓(13.6m,1277-1316年建造)。外観では中央部の円形がその部分であるが、全く目を引かず、外観の装飾としてはほとんど意味を持たない。

クリアストーリー窓
これは特定の形の窓のことではなく、教会堂の側面上部に並ぶ窓のことをいう。ロマネスク時代では建築工法が発展していなかったので小さな半円アーチ窓しか取れず、堂内は昼間でも暗い状態だったが、ゴシック時代に工法の革新があり大きな縦長のクリアストーリーを設置できるようになった。

クリアストーリーにはバラ窓と同様にいろいろな図象がステンドグラスで描写されている。窓は大きくなったが、ステンドグラスが入っているので堂内が圧倒的に明るくなったということはなく、堂内を明るくするというよりは神の住む天上世界の神の光を象徴的に演出する目的を持ったものだろう。

下は大型のゴシック教会堂の真ん中「身廊」の左右高所に並ぶクリアストーリー。実際はこの写真より暗く、ステンドグラスは、神秘な彩りとなっている。
バイフォレイト窓
上部が半円アーチの窓の中に二つの双子アーチと縦桟を設けた窓。ルネサンス期に登場。整然さを求めるルネサンス様式の中で、整然さを保ちつつ、入れ子式のリズム感を生み出している。

下写真はフィレンツェのリッカルディ邸の2~3階部分に並ぶバイフォレイト窓。
パラーディオ窓
(ヴェネチア窓、セルリオ窓)
パラーディオ(1508-1580 イタリア・ヴェネチアの建築家)の創造による後期ルネサンス(マニエリスム期)の窓。左右の2本柱に支えられたエンタブラチュアを半円形のアーチでつなぐ様式
下の建物では更にそれを太い柱で囲む複雑な入れ子構造をとっている。

中国のアモイの租界地区で見かけたパラーディオ窓。ちょっとバランスが悪い。
ランセット窓
上部が尖塔形になって途中に桟のない背の高い縦細い連窓 ゴシック期に登場

下写真のようにステンドグラスが嵌められ装飾されることが多い。

トレーサリー
ゴシック様式以降の教会堂等の窓を飾る葉状や幾何学的模様の飾り
8  まとめ
窓を視点に日本の家屋と比較しながら西欧の窓を見てきた。西欧の窓にはここであげたような特長、装飾以外にも多くのものがある。西欧における窓の重要性は現代のビルや家屋にも引き継がれており、個人宅の窓を飾る風習なども西欧文化の特長の一つであり、散策でいろいろ発見できるのも旅の楽しみに一つだ(下写真)。

下の窓は壁・戸・窓の色の配色が美しい。ガラスがあり、デザインされた鉄格子も入っているので板戸は実用というよりは飾りの位置づけだろう。板戸がないと想像するとちょっと平凡な寂しい姿となってしまう。
下はスイスの寒冷地なので断熱の為に厚い壁と小さい窓。しかし外光が入りやすいように隅切りされている。窓枠に代わる線図はこの地方特有のスグラフィッティというもの。そこまで考えられてのことかどうかはわからないが、白い鳩は聖霊の象徴でもある。
下は少し引っ込んだ窓の窓枠の下部は平らな花台になって、道行く人を楽しませてくれし、ちょっとした目隠しにもなっている。
下の窓は西欧で好まれるシンメトリー。外側はもちろん窓から見える飾り物も対称に配置されている。
図版流用元
<A History of Architecture on the Comparative Method>

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